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ヴェルサイユ宮殿のチェンバロ/les clavecins de Versailles

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ヴェルサイユ宮殿の鏡の間のある方の”Madame de la Victoire(勝利のマダムの意味)という音楽好きのチェンバロ、ヴィオラ・ダ・ガンバを演奏している肖像画の残っているお部屋の近くに近年より2台のチェンバロが展示されています。

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調律するメノとチェンバロ製作者のアラン・アンセルム

皆さまこんにちは。
先週、まる1日ヴェルサイユ宮殿で300年前のオリジナルのチェンバロの音をずっと聞かせて頂ける機会がありましたが、何とも言えない至福の時でした。

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1728年Johannes・Ruckers

私のオランダの恩師、メノ・ファン・デルフトがアムステルダムからヴェルサイユに来てフランスのチェンバリストの為にマスタークラスを行いました。

最近メノもフランスに呼ばれることが増え、オランダ語、ドイツ語、英語ぺらぺらに加えてフランス語も去年より流暢になってレッスンをしていてビックリしました。聞いたら、今アムステルダムで教えているフランス人の生徒には常にフランス語でレッスンをして、色々な表現も生徒から教えて貰っているそうです。どうりで、住まないと聞かない様なフランス語の表現も自由に使っている訳です。

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スタンドのオリジナルは全部金箔ですが、これはコピーだそうです。
オランダ人は世界でも多言語を話す人種として有名ですね。自分の国が小さいせいか、他人にオランダ語を話すことを期待できない分、学ぶ分けです。日本人にも同じことが言えると思いますが、やはりアジアの言語とヨーロッパの言語を根本的なつながりがほとんどない為、ヨーロッパ人の方がメリットは多いですね。また2,3時間ドライブすれば隣の国境ですから、身近に外国語を使う機会が多い分けです。

フランス人は・・・フランス語が一番美しい・・・他の言葉なんて・・・フランスに来る外国人がフランス語を学べばいい・・・という考え方が多い為か、なかなか外国語を何カ国語も話せるという人は少ないですが、それでもイタリア語、スペイン語はフランス語とルーツがラテン語で同じですから、発音をちょっと変えた位で大体みんな意味は分かるようです。
日本語の標準語と関西語くらいの違い方と思います。

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さて、話がそれましたがチェンバロのメソードはオランダのグスタフ・レオンハルト(今年81歳でもヨーロッパ中を飛び回って演奏旅行をしています!)の伝統的な流れがあり、フランスでも仕上げはオランダに行く音楽家が2,30年前から多いです。
また、オランダに行ったアメリカ人チェンバリスト達もその後パリに数多くいます。タッチやスタイルの感じ方がフランスとオランダではやはり違う気がします。フランス音楽やイネガル(緩やかにルバートして弾く)のセンスなどは、やはりフランス人の上手な音楽家は何とも言えない優雅さがあり、頭が下がります。

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でも、個人的にバッハやドイツ音楽は、やはりレオンハルト系のオランダ人の演奏やアーテイキュレーションなどしっくりくることが多いです。
オランダではやはり作曲家に対して謙虚の心で忠実に表現するという考えが根底にあり、レオンハルトの様な微動だにせず指だけ動かす美しいタッチを習得します。

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パリの楽器博物館にも同じ装飾画家(パリ)で仕上げられたルッカースがありますが、このヴェルサイユ所蔵の方は、金箔の後に黄色いニスを塗ってしまった様で(1700年代)色がきれいに出ていないのだそうです。少し剥がれた部分から良く見ると下に金箔のレイヤーがあるのが見えます

結局のところ、やはり素晴らしいチェンバリスト、音楽家は何人だろうが、どこで勉強しただろうが、やっぱり上手い分けです。

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面白いのは、私のアメリカでチェンバロの手ほどきをして頂いた恩師ピーター・サイクスとオランダの恩師メノが2年前にボストンで初めて会い、お互いの演奏を聴いてそれぞれとても好感を持っていました。私はそれぞれから相手の先生の感想を偶然聞いて面白かったですが、お互いにチェンバロ、クラヴィコード、オルガン弾きとして感心する部分があったそうです。

その為、今メノがピーターの為に来年ヨーロッパツアーをオーガナイズしているそうです。これは、本当に私にもとても嬉しく、ピーターは素晴らしい音楽家ですが一生ボストンに居たため、ヨーロッパのコネクションがほとんどありません。

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しかし、アメリカでお世話になったメノがその恩返しのようにヨーロッパでのコンサートツアーを企画してあげているというのは、何とも微笑ましいと思いました。こういう音楽家の交流は素晴らしいですね。

さて、話が大分それてしまいましたが、オリジナルのチェンバロは、1台1台音が全く違います。勿論、同じ製作者のチェンバロは大体似た傾向がありますが、もう300年以上も経って、その間にベルギーで作られた後にフランスに来て装飾や構造がフランス人の趣味に作りかえられたり、その後さらに1900年に入って修復をしたり・・・
と1台1台まるで誰かの祖先をたどる様に歴史がある訳で、それはチェンバロの人生という感じでしょうか。
昔”レッド・ヴァイオリン”という同じヴァイオリンを使用した3カ国でのお話を描いた映画がありましたが、楽器には1台1台歴史があります。
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蓋の上の装飾。使用している木のせいか、かなり重かったですね。また、本体はオリジナルですが1700年代に蓋は取り換えられ、別の装飾になっているということです。
チェンバリストや製作者はそういった歴史を知ることも重要で、特にオリジナルのチェンバロに触れれる機会には、同じ時期や年に作曲された曲を演奏したりすると、何とも言えない“ピッタリ感”があります。

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ルッカースファミリーのチェンバロは音質、構造が大変良く、後にフランスでこれらの良い土台を使ってフランス風に改造されました。しかし、チェンバロの裏面は壁側に置き見えない事が多い為、装飾がされていなかったりします。このルッカースも壁側はもともとの質素な典型的なルッカースチェンバロの大理石風の装飾が残っています。興味深いですね。

それは、フランス人にはフランス語で、ドイツ人にはドイツ語で、またイタリア人にはイタリア語で話しかけるのと同じように、フランス風チェンバロはフランスの作曲家、まさにヴェルサイユ宮殿で活躍した宮廷作曲家の曲を今回のようにヴェルサイユ宮殿で300年前のチェンバロで演奏できるのは、至福の喜びですね。

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製作番号が書かれています。ルッカースのチェンバロ工房は、“フランダースの犬が最後に教会でなくなってしまう大きな絵”のモデルとなっている有名なフランダース派(今のアントワープ)のルーベンスの工房とご近所でした。
その為、高級なチェンバロはルーベンスの工房で装飾がなされたりしました。

茶道を追及している方が、銀閣寺の1室で千利休の使用した道具でお手前を実際に体験できる・・・というヨーロッパ編といったところでしょうか。

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そして隠れた“道具箱”ここに、スペアの弦や道具をしまえます。かなり奥行きがありました

私のチェンバロもルッカースのコピーですが、この道具箱がついているのをてっきり忘れて、万が一コンサート前に弦が切れた時の為に弦が必要!あれ?ないない・・・と製作者に送って貰う様に聞いたのですが、道具箱にない?と電話で言われて、え?ちょっと待って・・・

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と見ると、壁側の普段は見ない方にちゃんと道具箱が・・・開けると全ての弦のスペアが出てきました。昔の人の知恵はすごい!

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もう1台の1746年 nicolas Blanche 

個人的にタッチはルッカースの方が弾きにくかったですが、ブロンシェは上鍵盤も下鍵盤も本当に何とも言えない素晴らしい音とまろやかなタッチですぐに魅了されました。アランが数年前にヴェルサイユ宮殿より再度調整し直してと依頼がり、今は弾ける良い状態になっています。それでも、急に部屋に20人弱の人がチェンバロの周りに来て弾いただけで、温度や湿度が変わるので調律したばかりでも1時間後にはすぐに狂い始め、小まめに調律が必要となります。

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ジャックは全てClaude.Y.Mercierによって修復された際に代えられ新しくなっていますが、アランがさらにパリ郊外のお城にあるもう1台のブロンシェのオリジナルと同じジャックをコピーして全て作りなおしたそうです。

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