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コンチェルト/le concert

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7月にブルターニュ地方(パリより北西でモネの愛したエトルタ島やモン・サンミッシェルがある)で小さな音楽祭があります。
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モネはブルターニュのBelle Ile(美しい島の意味)に10週間も滞在して絵を描いたそうです。

これは、ブルターニュ出身の音楽家が集まって何かをやろう!ということで昨年度より始められ、大盛況だったようです。

以前にお城のコンサートなどでご一緒したヴィオラ奏者の方より、是非また一緒に演奏しましょうということで準備が始まりました。

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モネ 1883年エトルタ島
5,6人のメンバーはバロックオーケストラで弾いてたり、普段はベルギーに住んでいるフランス人だったり、それぞれですが、大変光栄なことに若手チェンバリストとして活躍しているベンジャマン・アラールさんと共演させて頂くことになりました。彼は18歳の若さでバロック音楽の登竜門であるブルージュ国際コンクールで、満場一致で1人になり、その後活躍しているオルガにスト・チェンバリストです。

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ブルターニュの郷土料理としてクレープとリンゴ酒(シュゼット)が有名ですが、日本の神楽坂にフランス人の経営する本場フランスから取り寄せたそば粉のクレープ屋さんがあるようです。カフェ・ル・ブルターニュの詳細はこちら。

彼と一緒に演奏するコンチェルトはJ.S バッハの次男であるカール・フィリップ・エマニュエル バッハでのチェンバロとフォルテピアノの為のコンチェルトです。彼は、才能を高く評価され、プロイセン公国のフルートを演奏するフリードリッヒ大王のお気に入り宮廷作曲家として多くの名曲を残しました。

ちょうどバッハ(お父さん)のチェンバロが栄えた時代から次男のC.P.Eバッハの活躍し始めた時代は初めてピアノが開発され、鍵盤楽器の移行期でした。C.P.Eバッハの住んでいた宮殿にはいくつものチェンバロ、ピアノがあったようですから、最新の鍵盤楽器をいち早く発掘して作曲していたようです。

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J.S BachとC.P.E.Bachの絵。ちょっと怖い気もしますが・・・
なかなかチェンバロの音質とフォルテピアノの音質のコンビネーションとは稀ですが、演奏する機会も少ないので楽しみです。

また、それ以外にも何かフォルテピアノでコンチェルトを弾いてみては?という案が顔合わせのデイナーの時に出ました。予想外でしたが、モーツァルトか何かをやってみては?という意見も。

なるほど。

最近モーツァルトのコンチェルトからは遠いレパ―トリ―に親しんでいた為、数週間何となく自分の頭の隅において時間が経ってしまいました。

でも、気がつくとそのコンサートは7月始めで7月末にはチェンバロでバッハのブランデンブルグ協奏曲の大きなソロパート(コンチェルトほどの大曲)の本番もあり、これは早めに準備をしないと大変なことになるのでは?とやっと気がつきました。

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1798年ウイーン式フォルテピアノ
そこで、昔・・・といっても、もう15年くらい前?になるでしょうか、やったモーツァルトのコンチェルトをちょっと弾いてみると、馴染みのある懐かしい響きと共に、やはり新鮮さもあり、せっかくならやろう。と思った所です。

なかなかコンチェルトは1人で弾く訳でない為、十分な準備、本当に手に入ってないと他人に迷惑がかかります。テンポが遅くなったり、オーケストラのパートを分かっていないとコミュニケーションもスムースに行きません。

ということで、今は4月の東京公演の用意と練習にやっと集中・・・と思いきや、同時進行で東京から戻ってからのピアノのコンチェルトも用意しないと間に合わないらしい・・・・

と小さな頭の中で気がついたしだい。

でも、超多忙な音楽家達は1週間で違うプログラムを旅をしながら、軽々と演奏してしまうでしょうし、いつでも何でもこい!くらいに、何でも手に入っているのがベストでしょうか。

まだまだですね。でも、自分への小さな挑戦として1歩ずつ進んでいきたいと思います。そうすれば、今まで不可能と思って居たことも気がついたらできていた・・・という風に許容範囲が広がっていくのだと思います。

本当にいつも友人のピアニスト達を見ても心から尊敬してしまいます。ピアノは肉体的にも消耗しますし、とにかくレパートリーが広い!バッハ、クラシック、ロマン派、そして近現代まで膨大なレパートリーを常にこなしていくわけです。

チェンバロの栄えたバロック音楽は大体1650年ー1750年の間くらいに限定され、イタリア、ドイツ、フランスのそれぞれのスタイルの違いなど装飾音や伴奏法でも詳細を知ることがとても重要視されます。

その為、演奏のみでなく学術的な研究心の多い”おたく”な人がとても多いです。でも、2010年に生きている訳ですから1700年の音楽を本当に理解する為にはその時代の教則本や装飾の仕方、スタイル、趣味、どんな劇や文学が好まれていなのか、思想、宗教…など文化的背景を知ることが大変重要となります。

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ピアノを弾いていた時はあまり作曲家のことなどについて本も読みませんでしたが、真面目な友達はきちんと読んでいましたね。(苦笑)私はモーツアルトは本当に生きていたの?というくらい実感が湧かないわかないまま指だけ勝手に動いていました。

大学生の時に初めてウイーンに行ってモーツァルト博物館になっている彼が実際に作曲した天井画など見て、この場所で彼が書いていたのか、また実際にコンサートが行われた舞台は本当に小さく、ある意味ショックを受けました。

天才のモーツァルトがこんな小さな所で弾いていたの?と。

今の2000人ほど収容できるコンサートホールの感覚からすると考えられない50人くらいのスペースだったでしょうか。でも、うっすらと壁に残るフレスコ画などが印象に残っています。今でも観光客向けの小さなコンサートが行われているようです。

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その小さな場所で演奏されていたのが、開発されたばかりのフォルテピアノだったわけです。別に2000人に対して演奏する訳でないので楽器の響板に鉄筋が入って大きな音が鳴らなくても良いのです。

きっと、当時の人の“耳”や、時間、そして距離感など現代人と全く違うのではないかと思います。
バッハ家も愛用していた“クラヴィコード”という小さなテーブルのような、弦を持ち上げて振動させる楽器もありましたが、それは、自分や2,3人の友人が楽器のすぐ横で耳をそばだてて聞かないと聞こえないほどの小さな音です。雨の音でもかき消されるような・・・という表現が昔の手紙に残っていたようです。

しかし、そんな繊細な楽器と向き合って居ると、本当に自分の指先、耳の感覚が研ぎ澄まされ、知らない間に自分の心と対話しているような・・・そんな感覚になります。
そして不思議なことにクラヴィコートを弾いた後に、それよりも音量の大きいチェンバロやフォルテピアノを弾くと、なぜか上手くなっている訳です。それは、”聞く耳”が研ぎ澄まされると色々な人の気持ちが理解できるようになるのと似ているでしょうか。

ですから、違う楽器を1つのコンサートなどで演奏する場合は、必ず小さい楽器から大きな楽器へと移動しないと、感覚がずれて大きな楽器で弾いて(例えば今のピアノ)その後にチェンバロを弾こうと思っても叩き過ぎてしまうのです。


17,18世紀はTVやインターネットもなければ、電話もない。お手紙も馬車で運ぶから数日~数週間かかったでしょう。
そして、月や蝋燭の光の中で、自然と共に生き、感じ、音楽という存在があったのではないでしょうか。実際バッハが晩年白内障に悩み目が悪かったのは、10代の頃に戸棚に大事にしまわれて自由に見る事の出来なかった他の作曲家の曲を見たくて、夜中に内緒で月の光のもとで写譜をし続けたことが大きな原因と言われています。

アムステルダムやウイーン、またパリも壁で街が囲われていた歴史的な都市は、今でも徒歩圏内で主要な場所に行けます。アムステルダムに住んでいた時は自転車で5分、15分(まあ遠い方)30分(遠い)という感覚で生活していました。本当に中世サイズなんですね。未だに王宮は街の中心で銀行、駅、郵便局、教会などが全て徒歩圏内にまとまっています。パリもセーヌ川両脇にほとんど主要の全ての建物が連立しています。

そうして見ると、やはり17世紀、18世紀に人々がどんな暮らしをしたのだろう・・・というのは、楽譜からだけでない、街の匂いや実際に歩いてみて実感することも作曲家を知る大きな手掛かりになります。

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1900年St-Gervais教会
パリのマレ地区にある教会では、素晴らしいチェンバロ作品を残したクープラン家がオルガにストとして勤めてましたが、今でもそのオルガンは毎週のミサで演奏され、教会では修道女と修道士が毎日祈りを捧げています。そんな雰囲気を垣間見るだけでも、クープランが生きていた頃の空気を感じれる気がします。

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今でもSt-Gervais教会はセーヌ川沿いにそびえています。
by kcembalo | 2010-02-14 06:41 | 音楽/Music