ルッカースファミリー/Ruckers Family

フランスとドイツの国境寄りにあるコルマールという町には、世界的に有名な17世紀のチェンバロがあります。

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コルマール市にある貴重な絵画やチェンバロが保管されているUnterlinden Museum

このチェンバロ製作者であるルッカースファミリーは、17世紀にベルギーのアントワープ市で数多くの素晴らしい楽器を生み出し、その名声は隣国のフランス、ドイツ、イギリスに多大な影響を及ぼしました。


①Hans Ruckers(1550-1598) 1代目


②Ioannes Ruckers(1578-1642)Hansの息子

③Andreas I Ruckers(1579-1651/53)Hansの息子

④Catharina Ruckers
: Hansの娘で医師Calros Couchetと結婚し、生まれた⑤Ioannes Couchet(1615-55)が後に②Ioannes Ruckersの養子となり、1642年より工房の後継者となる。
⑥Andreas II Ruckers(1607-54/55) Andreas Iの息子

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383年経ったオリジナルのルッカースを弾かせてもらいました。大変貴重な機会です。

このUnterlinden Musuemに保管されているチェンバロは、1624年 ヨハネス・ルッカースにより製作されたものです。1660年、1720年に大きな改造(ラバルモン)をされ、1980年にこの美術館が買い取りましたが、その際にもChristopher Clarkeにより修復され演奏可能の状態になりました。

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ヨハネスによる現存するチェンバロは、他にもイギリス・エジンバラ(ラッセルコレクション)、ローマ楽器博物館、パリ楽器博物館、ヴェルサイユ宮殿にもあります。

ローマ楽器博物館は6月に思いがけず観る事ができましたが、鍵盤は4度ずれた移調鍵盤のまま残されている貴重な楽器です。

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鍵盤の周りのフレミッシュチェンバロ(オランダ風)特有のアラベスクの紙は、1624年のオリジナルのままです。

コルマールのチェンバロも、1624年に製作された時には同じく上鍵盤(C/E-f3)と下鍵盤(C/E-c3)の音域が異なりましたが1660年に上鍵盤にショートオクターブが付け加えられ、低音を5音増やし(H/G-c3)になり、1720年には更に低音3音と高音2音を足し(G-d3)になりました。

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しかし、オリジナルのルッカースの鍵盤の幅は大きめなので、フランス式の鍵盤の方が数ミリ小さい為、もともとの外のケースと響板はそのままで鍵盤数を多くできました。

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ジャックは修復の際に新しいものにされています。

ルッカースファミリーが繁栄した頃、アントワープには絵画で有名なルーベンスやブリューゲルが住み、ルッカースのアトリエはルーベンス自身が設計した素晴らしいアトリエと1本違いのすぐ近くでした。

ルッカースのチェンバロ装飾をブリューゲル自身やルーベンスのアシスタント達により描かれた贅沢な楽器も現存しています。

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Ioannes Ruckersのローズ

フレミッシュ風のチェンバロの響板には、植物の他に、果物や鳥、えびや蝶などが描かれていますが、17世紀当時それは*庭*を象徴されていたと私がお願いした修復画家は言っていました。

ブルーのフレミッシュ風のアラベスクはお庭の柵を意味し、その中には上記のようなモチーフが綺麗に描かれています。

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また、アメリカの楽器研究家の説では、*5感*を表現しているということです。ルネサンス時代からヨーロッパには人間の5感をテーマにした美術品がありますが、パリの中世美術館にもショパンの恋人であったジョルジュ・サンドが所蔵していたという素敵なタピストリーが展示されています。

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鳥=聴覚、花=視覚と臭覚、果物=味覚・・・・という具合に。

17世紀フランダース派(フレミッシュ)の絵画を見れば分かりますが、花の絵の中には実は*過ぎ行くはかなさ*を表現していたり、シンボルが沢山隠れています。

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チェンバロの響板に描かれている花の花言葉なども調べてみると、色々なメッセージが含まれているかもしれませんね。

また、内蓋の絵も17世紀後半にフランスによって描き直されたものが現在の状態です。モチーフは、フルートの神様であるPANとリラを持ったAPOLLON、そしてMIDAS王が描かれています。
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よく見ると、白い亀裂が入っているのですが、383年経った板ですからしょうがないですね。

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蓋の裏の部分。
レントゲン等による調査から、外のケース(黒に金色の模様)の部分には、もともとルッカース特有の大理石風の模様が描かれていたことが分かりましたが、18世紀のフランスのサロンとは豪華な雰囲気でしたので、質素なフレミッシュ風の装飾とスタンドも造りかえられてしまいました。

ルッカースファミリーにより製作されたチェンバロは現在世界に100台余りあるようですが、ルッカースのモデルは17世紀、そして18世紀にも大変人気であった為、フランスでも*ルッカース風*の偽者のチェンバロを作る製作者も増えていたほどです。

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1748年フランス・リヨンで製作されたルッカースのスタイルを真似たチェンバロ。猫足のスタンドはフランス風なのでミックスしています。

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1748年Lyonとありますが、ルッカース風の紙が使用してあります。この楽器も最近パリ近郊の楽器修復家が修復して演奏可能の状態です。
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