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2005年山梨古楽コンクール/ Yamanashi Baroque music competition in 2005 in Japan

2005年の春に日本で唯一の古楽コンクールを受けることにした。当時は、アムステルダムに住んでいて、4月のコンクールに向けて、数ヶ月前より準備を始めた。

しかし、運悪くもコンクール2ヶ月前に自転車事故で、右ひざ靭帯を怪我し、1週間自宅から一歩も出れないほどの激痛を経験し、結局1ヶ月間びっこを引いて、まともに歩けなかった。

大事な時期にそんなことが起きてしまい、どうにもできないやら、情けなさ気持ちで一杯であった。できることと言えば、座って行動できる読書と練習。まるでおばあさんのように、隣の部屋に行くことすら、困難であった・・・・

オランダの医療事情は日本に比べてとても遅れており、MRI(超音波)で検査して貰うのに、3週間待つと言われた為、それならばしょうがないと、急遽治療の為日本に3月に帰国した。

驚くべきことに、いつもお願いしている整体の先生の2回の治療で無事に歩けるようになり、靭帯が縮んで伸ばせなかった足もどうにか普通になった。

そうしてオランダへ帰ると、コンクールの為に再び帰国するのは約3週間後であり、やっと最後の詰めの練習ができる状態に戻ったが、時間が足りない状況下にあった。

しかし、外国でチェンバロを始めた私にとって、日本でどんな人がどのような演奏しているのかも全く知らない為、知らない世界を見るのも良い勉強という思いで山梨へ向かった。

予選は、7曲ほど決められた課題曲の中からバッハ以外から選択して良いという、割と自由の利く発表があった。

その中から、私は自由曲で選択したルイ・クープランのホ長調のプレリュード、フローベルガーの組曲そしてダングルベールのパッサカリアを選び、違うスタイルの曲を演奏し、持ち時間を目一杯に使った。

もともとのコンディションが足の為に、思い通りに整えられなかったせいか、あまり余計なことを考えずに、素直に音楽だけを見て弾けた気がする。

ある意味、聴衆のことも、審査員のことも変に意識せずに自分の中で、最後まで納得のいかない箇所を、なんとか音楽的にならないものかと思い、客観的に音を聞き、表現することに集中した。

弾き終わったら、まあ、やることはやったとすっきりし、せっかく山梨に来たのだからと、隣の温泉町へ行って、20mほどもある素晴らしい檜風呂に入って、極楽気分を味わっていた。

その後会場へ戻り、予選終了後の結果発表で張り出された紙に、なぜか自分の名前があり、一瞬・・・・・・把握できなかったが、次の瞬間、*え~~~。また弾くんだ。温泉なんか行かなければ良かった。*と一瞬後悔した。

しかし、与えられたチャンスはありがたいと思い、再びコンクールモードに切り替え、翌日の本選に臨むんだ。

本選では、イタリア音楽からストラーチェの陽気なシャコンヌとバッハのニ短調のトッカータを演奏した。既に5人に絞り込まれていたので、色々なことを考えてしまい、後から考えてみると、前日の無意識の高い集中密度に比べて質が落ちてしまったようだ。

演奏後、さすがに緊張で疲れ*これは、やっぱり温泉!*とまたもや、檜風呂を堪能しに行ってしまった。

結局、1位なしの3位を頂き、何も期待しないで受けたので、嬉しい驚きであった。
しかし、何よりも聞いていた人の感想より、音楽だけを素直に見ていた予選の演奏の方が、心に響いていたことを知り、驚きであった。

そういった、演奏中の精神状態と実際に聴衆にどのように伝わっているのかということを学ぶ、とても貴重な機会となった。